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So, Coffee?

FEATURE
山とコーヒー
#01
#01

小島聖

俳優

あれこれ考えず、行ってみればなんとかなる。
激しくも軽やかな、小島聖の山との向き合い方。

30年以上にわたり、舞台、映画、ドラマなど、さまざまな作品に出演する俳優の小島聖さん。幼い頃から変わらず仕事に邁進する一方で、30歳からは国内外で登山やトレッキングを精力的に重ねてきた。彼女が山に惹かれるのはなぜだろう。コーヒーを片手に、山の魅力とこだわりを聞いた。
Aug.31.2023

Hijiri Kojima

photography:Mai Kise
styling:Mihoko Sakai
hair&make-up:Rumi Hirose
interview & text:Ku Ishikawa
edit:Shigeru Nakagawa
produce:Yuki Tadano(MAGAZINEHOUSE CREATIVE STUDIO)

「深炒りのコーヒーが好み」という小島さん。10種類のコーヒーのなかから選んだのは「上島珈琲店ブレンド」。創業者、上島忠雄が生まれて初めてコーヒーを飲んだときに感じた、甘味と苦味の調和にこだわったもので、古き良き喫茶店で供されるような昔ながらの味わい。

ネパールで価値観を揺さぶられ、
気づくと山の虜になっていた

— 山に通うようになったきっかけは、30歳のときにネパールに行ったことだったとお聞きしました。

初めてのネパール旅行は、現地のガイドさんのおすすめルートをとにかく詰め込んだ2週間で、観光地巡りや、サファリ体験などをしまして、そのなかの1つが最大標高3,198mのプーンヒルでのトレッキングだったんです。初心者どころか初体験なのにまさか!って思うでしょう(笑)。

それでも用意されたアクティビティじゃなくて、自分の足で地面を踏みしめながら山を歩くトレッキングは、その頃の自分を満たしてくれました。歩くなかで目にした、高山で生活を営むネパールの人の様子が、東京で暮らす人々の生活と全く違っていたことも、大きく価値観が揺さぶられました。だからまず最初にネパールという国に惹かれて、国の文化を自分の身体で丸ごと体験できるのがトレッキングだったってことなのかな、と思います。

それから毎年ネパールに通うようになりました。2年目はトレッキングだけに絞って、ネパールといえば山、という感じになっていて。7年目には写真家の石川直樹くんに誘ってもらい、ロブチェピークという山で初めて登山、つまり頂上に立つ経験をしたんです。

— 日本でも山には通われていたのでしょうか?

そうですね。日本でも会う人会う人に「山に行きませんか?」と声をかけて、ご縁が繋がって、いろんな山に足を運びました。今振り返れば、30代の私は、周りから見るとちょっと不安に思われるくらい山に通っていたと思います(笑)。今は子供もいて、山に行けない状況をしょうがないって思って過ごせるんですが、30代は“しょうがないから行かない”という選択肢はなかったんです。撮影と撮影の間で1日休みがあったら、仕事終わりに少し寝て、深夜1時とか2時に起きて登山口まで行き、朝から歩いて。それで日焼けして怒られたりして。

— すごいバイタリティですね。ちなみに最近はどれくらいの頻度で山に行かれているのですか?

今は自分の欲求を満たすような山登りやトレッキングはできてないけれど、それでも行きたいから、子供も連れて行けるようなところに行きます。まだ歩けないときは私が背負って、歩けるようになってからは歩く時間と距離を少しずつ伸ばしながら。今は片道3時間なら歩けるから、この夏は初めて2人でテント泊をする予定です。

— お子さんと一緒に行かれた山での印象的な体験はありますか?

随筆家であり登山家の深田久弥さんが愛した茅ヶ岳に2人で登ったとき、お昼ご飯に持って行ったのは、おにぎりだけだったんですね。それを頂上で食べていたら、後からやってきたご夫婦がガスバーナーとアウトドア用の網を出して、家から持ってきたサンドイッチを焼いて、パニーニみたいにして食べ始めたんです。すごく香ばしい匂いが漂ってきて、子供が「良いなあ、あれやりたーい」と。だから「じゃあ、あなたもだいぶ歩けるようになったから、次はやってみようか」と言いましたけど、美味しいものに惹かれる血は争えないんだなぁって。

汗を出して、山を歩き、美味しいものを食べる

— 山での体験を綴った著書『野生のベリージャム』のなかで、“自然の中に入る第一日目はリズムがつかめず、いやな汚い汗が止まらない。しかし、この汚い汗は30分ほどダラダラと流れて出尽くしてしまうと、その後はなんだかとても気持ちのいい汗に変わっていく”とありました。

これは今でも常にある感覚で。最初の1時間くらいは、すごく汗をかく。それも、ただの汗じゃなくて、それまでの疲れとかいろんな感情が、汗になって自分の外に出ていくような。やっぱり急に自然のなかには入れなくて、物理的な準備はもちろんあるけれど、身体と気持ちのその場の空気を合わせるってことなのだと思います。

でもそれは山に限ったことじゃなくて、今日の現場でスタイリストさんやカメラマンさん、ヘアメイクさんと撮影前に他愛もないお喋りをするのも、私にとっては今日の現場に自分を合わせていく大事な時間なんです。その時間があるから、気持ちよく仕事に入っていける。

— そうした時間を経て、山で過ごす体験にはどんな魅力があるのでしょう。

うーん……全部です(笑)。一心不乱に歩くことが気持ちよくて、身体を動かせばお腹が減るから山で食べるご飯が美味しくて、下山して入る温泉や、お疲れさまのビールもそう。最初は嫌だった雨も、慣れてきたら「雨、気持ちいい!」みたいな(笑)。すごい降った後に、パーッと晴れるとちょっとしたトランス状態になる。

— そのなかでも特に長いのは歩いている時間ですよね。

うん、山を歩くこと、それだけで非日常的。最初の頃は、頂上を目指すことが大事だと思っていた節もありました。でもロングトレイルの聖地、アメリカのジョン・ミューア・トレイルでの経験で、結局は頂上にたどり着くのだけど、私はそれまでのプロセス、つまり歩くこと自体が好きなんだって気づいたんです。

普段町を歩いていると、気になるお店があったら入ってみようかなとか、スマホにメッセージが来たら開かなきゃなとか、“ただ歩く”ってことは意外とできないじゃないですか。だから山で歩くっていうのはすごくプリミティブな行為で、余計なことがないから自分がどんどんシンプルになっていく。「歩くことは思考の時間」とよく言われるけど、本当にそうだなって思います。なにを考えているわけじゃないけど、気づいたら自分の心の整理の時間になっている。意図したわけじゃないのに。

あとは、何度だって言うけど、歩くとご飯が美味しい(笑)。

— たしかに小島さんは鉄のフライパンを持ってホットケーキを焼いたりですとか、ご飯にひと工夫されていますよね。流行としてはウルトラライトというスタイルがありますが、その逆と言いますか。

装備との兼ね合いもあるけれど、せっかくなら美味しいものを食べたいじゃないですか。私が知り合った人たちは基本的に「なんでウルトラライトにしなきゃいけないの?」っていう、昔ながらの山との関わり方が好きな人が多かったから、私もその影響を受けています。

日本の山に通い始めたとき、周りの人を見ているとご飯はインスタントで簡単に済ませる人が多かったけど、たとえ荷物が重くなっても、私は一手間かけるぞ、と。だからお米を持ってご飯を炊いたり、醤油や油を1本持ち込んだり、いろんなことしました。

登る山は名前の響きで決める。それくらい気軽に身軽に

— 先ほど深田久弥さんの名前が出ましたが、山の文学もお好きなんですか?

それこそ、オールドスクールな山の愛好家たちに、山は登るだけじゃなくて、文化的なところもあると教えてもらって。それで読み出したら止まらなくなりましたね。山にまつわる本は、自分が行ったことのある山の景色や場所のことが文字になっているから、二重の意味での追体験というか、先人たちと自分の体験が合致するのが面白いですね。

1冊勧めるなら、哲学者の串田孫一さんの『山のパンセ』という随筆。1950年代に書かれた本だけど、時代は変わっても、変わらないものが山にはあるってよくわかる。単純に山に行きたくなると思います。

— 行きたいなとは思いつつ、なかなか一歩目を踏み出せないんですよね……。

登山に限らず、なんでも始めるときは何から手をつけて良いかわからなくなりますよね。私はたまたま、周りに恵まれて「ここ行こうよ」って誘ってくれた人がたくさんいたのは大きいです。装備はこう、荷物はこう、って煩わしいことを言われたこともない。行く前にあれこれ考えるんじゃなくて、行けばなんとかなる(笑)。それが自分には合ってたし、そうやって体験することから学んできました。

ヨーロッパの山に行ったときも、現地に着いてから「ロープワーク必要なんだ」と知って。ネットで調べればいろんな情報が出てくるけど、私は『地球の歩き方』を読むくらいで、前情報を入れなかったんです。調べずに行けばいいや、行ったらなんとかするしかないし。そういう旅や登山が私は好き。だから、興味があれば逡巡せずに行ってみたら良いと思います。

— 行く山はどうやって決めていたんですか?

単純に、名前の響きですね(笑)。どんな山か詳しく知らなくても、モンブランとかマッターホルンとか、名前は知っているじゃないですか。その名前が良いなあって思ったところに行くんです。例えばモンブランなら、名前から入って、フランスとイタリアの国境にあるから、行きはフレンチ、帰りはイタリアン、最高だね、なんて。そんなに深く考えていないです。

— 初心者におすすめのコースはありますか?

手軽なのは、長野県から山梨県に連なる八ヶ岳ですかね。頂上に登らず、トレッキングを楽しむのなら、「稲子湯」という登山口から入って、トーストが有名な「しらびそ小屋」まで歩く片道2時間のルート。トーストを食べて「稲子湯」に戻って、温泉に入って帰ってくる。半日もあれば全然行けちゃいます。

または「唐沢鉱泉」から入って、「黒百合ヒュッテ」でビーフシチュー食べて帰ってくるルートもある。いずれにせよ、美味しいものと温泉から入るのはいかがかしら(笑)。

本日のコーヒー
上島珈琲店

1杯用レギュラーコーヒー(粉)
10種セット

1杯分ごとに真空パックで包装した10種類のコーヒー粉とドリッパーのセット。「真空パックで小型だし、山に持って行くのにすごく向いていますね。パッケージのイラストもレトロなタッチでかわいらしいし、味がすべて異なるから大人数で登ったときに皆で選んだりするのも楽しそうです」と小島さん。

自然のなかで豆を挽き、
山の水で淹れるコーヒーは最高の贅沢

— 山登りやトレッキングで行く先で、お店を巡るのも楽しそうですね。

お土産代わりに、コーヒー豆を買って帰ることもありますよ。八ヶ岳を歩く際に寄りたいと思うのは、山梨県の甲府市にある「珈琲 雨待ち」というカフェで、週に4日の営業なので、タイミングがあって買えるとすごく嬉しくて。深炒りでとっても美味しいんです。

— 買う体験とは別に、持参したコーヒーを飲む描写も、著作のなかで印象的でした。

何かしらの形で必ずコーヒーは携帯しています。可能な限り、豆のまま持って行って、山で挽いて飲みたいんです。味だけで言えば、お店で飲むコーヒーの方が美味しいと思う。でも長時間歩いて、その場で豆を挽いて、運良く山の水を使って淹れられると、すごいラッキー!って思いますね。美味しいとかまずいとかそういう話じゃなくて、体験そのものが豊かで、「あー来て良かった」ってしみじみ思います。

— 風景が思い浮かびますね。どんなタイミングで飲まれるのでしょう?

早朝に目が覚めて、疲れた身体を伸ばしつつ、日が昇るのをぼんやり待ちながら飲んだり、休憩ポイントで甘いお菓子と一緒に「ここまで頑張った!」って思いながら友人と飲んだり。山との時間に癒しを与えてくれる小さいけれど大事な存在なのでしょうね。

小島聖

俳優
こじまひじり|1976年生まれ、東京都出身。1989年、俳優デビュー。1999年、映画『あつもの』で、第54回毎日映画コンクール女優助演賞を受賞。コンスタントに映像作品に出演する一方、舞台にも多く出演。近年の舞台出演作に、『夜明けの寄り鯨』(演出:大澤遊)、『Heisenberg(ハイゼンベルク)』(演出:古川貴義)など。11月に『ビロクシー・ブルース』(演出:小山ゆうな)への出演を控えている。著書に国内外での登山の様子を記録した『野生のベリージャム』(青幻舎)。
〈TEECHI〉ジャンプスーツ ¥58,900(TEECHI / info@teechi.jp)、〈Rieuk〉チェーンネックレス ¥38,500(Rieuk / info@rieuk.com)
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