素材の背景に徹底的にこだわった
『ウシオチョコラトル』のチョコレートで
“やさしい”コーヒーブレイクを。
photography:Satoko Imazu
text:Emi Fukushima
edit:Chisa Nishinoiri
カカオ豆と糖分だけで作る
小さなチョコレート工場の始まり。
穏やかな瀬戸内海を見下ろす山の中腹に、工場兼カフェを構えるチョコレートメーカーが『ウシオチョコラトル』。カカオ豆と砂糖を中心に、シンプルな素材だけを使った個性豊かなチョコレートを提案している。原材料の仕入れから焙煎、成形、販売までを一貫して自社で行っていることも彼らの特徴の一つだ。
ことの始まりは、まだ“ビーントゥバーチョコレート”という言葉すら存在していなかったおよそ10年前。国内各地を放浪する中で、尾道が気に入って腰を落ち着けていた中村真也さんが、カフェで働く傍ら、雑誌の記事を通じて、ニューヨーク・ブルックリンの『MAST BROTHERS CHOCOLATE』を知ったことがきっかけだった。 「高級感漂うヨーロピアンなチョコレート店のイメージと異なり、ネルシャツにエプロン姿のワイルドな男たちがチョコレートを語る姿が新鮮でカッコよくて、ひと目で惹かれました。そして何より、新鮮なカカオ豆と砂糖だけでチョコレートを作っていることに驚いた。僕自身がヴィーガンな食生活を実践していたこともあり、『これなら自分も食べられる!』と興奮したのを覚えています」
ほどなくして、当時アメリカで同時多発的に生まれていた同様の“クラフトチョコレート”を食べる機会も訪れ、カカオの個性が際立った味そのもののおいしさにも衝撃を受けた中村さん。仕入れから製造、販売まで、自分たちの手の届く範囲で行う小規模なスタイルにも感銘を受け、「自分もこんな店をやってみたい」と、3人の仲間と開業を決めたのだそう。
今年10周年を迎えた『ウシオチョコラトル』の店頭に並ぶのは、常時15種類ほどの板チョコレート。創業以来ずっと大切にしているのは、良質な素材選びだ。例えば原料となるカカオ豆は、一般的には商社を介して仕入れるのが手っ取り早いのだが、中村さんはできる限り、カカオ農園と直接取引する「ダイレクトトレード」を目指している。世界各地の農園に自ら足を運び、質はもちろんのこと、作り手と言葉を交わしながら、彼らの哲学や労働環境なども含むバックグラウンドを見極めていくのが流儀だ。
「カカオ豆の栽培には生産者の貧困や児童労働などさまざまな問題がありますが、ゼロから学んでいく中で感じたのは、どんな人たちが、どんな環境で、どんな文化の下でカカオ豆を作っているかが、味を決めるということ。ゆえに社会的にも環境的にも、健やかなバックグラウンドを持つものを仕入れることを心がけています。例えば現在も、ガーナ産のカカオ豆は『ACE』というガーナの児童労働をなくすための取り組みをしている団体を介して購入したり、グアテマラ産のカカオ豆は生物多様性を念頭に置き、複数の樹木と共に自然な形で農作物を栽培する『アグロフォレストリー』を実践しているものを選んでいたりする。背景を知ることは、かねて大切にしていることの一つです」
バリ島のある村で育まれた
本物の“生カシューナッツ”との出会い。
近年では、産地別のカカオ豆と砂糖だけで作られるシングルオリジンチョコレートのみならず、植物性の素材を取り入れた新たなチョコレート作りにも取り組む中村さん。ここ数年の間には、あるカシューナッツとの出会いにも恵まれた。
「数年前から乳製品に代わってカシューナッツを使った、ヴィーガンスタイルのミルクチョコレートやホワイトチョコレートを作り始めていました。当初は商社から仕入れていたんですが、大阪のコーヒーショップ『euki』店主で、インドネシア・バリ島のボン村でコーヒー農園の運営にも携わる大西雄季さんに話したら、『いいのがあるよ』と紹介してくださって。それが、バリ島のムンティグヌン地区で自然栽培されているカシューナッツだったんです」
バリ島北部の山間に位置するムンティグヌン地区は、十数年前まで島内でも最貧困地区だったそう。雨がほとんど降らず、万年水不足。住民たちは生活用水を求めて、バケツを片手に片道3時間かけて麓へ。産業もなく、人々は過酷な生活を余儀なくされていた。
「現状を知ったあるスイス人銀行家の方が、天啓を受けたかのごとく改革に乗り出したそうなんです。湖から生活用水を汲み上げるシステムを作って、技術とともに住民たちに授けたり、バティック織やハンモック編みなどの伝統的な手仕事や、自生していた植物の栽培が、安定的に行える拠点や販路を作って産業化を促したり。最終的にはそれら拠点を巡るトレッキングツアーも作り、今では観光客が後をたえない地区になっています」
もともと自生していたカシューナッツの栽培も、これを機に産業化したものの一つ。ここで作られるのは、ナッツ栽培現場においては希少な、地区内での一貫したプロセスを経て天日乾燥させる正真正銘の生のカシューナッツだ。ゆえに価格は市場価格の2、3倍ほどだが、こうしたストーリーと質に共感をした中村さんは、仕入れることを決めたのだそう。
「たまたま僕が仕入れをしたのはコロナ禍でした。当時現地では、ちょうどインドネシア国内のリゾートホテルからの発注が止まり、売り上げが立たず苦境に立たされていた時期だったようで、手はじめに1トンほど買ったら、救世主になったかのように感謝されて(笑)。少しでも貢献できたことは、嬉しかったですね」
コーヒーとカカオ、
エシカルな物語に彩られた、素敵なペアリング。
カカオ豆やカシューナッツを筆頭に、人にも環境にもやさしい素材から作られる『ウシオチョコラトル』の商品はいずれも、オリジナリティあふれる豊かな味わい。おいしさとエシカルなストーリーをあわせ持ったチョコレートは、普段のコーヒーブレイクを一層豊かにしてくれるはずだ。そこで最後に中村さんに、さまざまな食事やスイーツとのペアリングを意識してブレンドされたワンドリップコーヒー「CAFE@HOME Food with Coffee」シリーズの6種の中から、3種類のチョコレートに合うオススメの1杯を選んでもらった。
ネクストホワイト× CAFE@HOME
with Wagashi 和菓子と
「ネクストホワイト」は、中村さんが共感を寄せたムンティグヌン地区のカシューナッツに、タンザニア産のカカオから自社で抽出したココアバターと、砂糖を合わせて作られたホワイトチョコレート。これに合わせたのは、あんこや芋栗の濃厚な甘みを持つ和菓子とのペアリングを意識してブレンドされたコーヒー「CAFE@HOME
with Wagashi 和菓子と」だ。
「一般的なホワイトチョコレートに使われる乳製品をカシューナッツで代用したヴィーガンスタイルのホワイトチョコレートです。濃厚な味わいなので、香ばしくほろ苦い『CAFE@HOME
with Wagashi 和菓子と』の一杯とよく合いますね」
あまいひとくち × CAFE@HOME
with Milk ミルクと楽しむコーヒー
「あまいひとくち」は、アグロフォレストリーと呼ばれる自然栽培によって作られたマダガスカル産バニラビーンズを扱う『Co・En
Corporation』のバニラシロップの搾りかすを使用したミルクチョコレート。お供には、ミルク本来の甘みとコクが引き立つバランスが良いコーヒー「CAFE@HOME with Milk
ミルクと楽しむコーヒー」を。
「シロップを搾った後に余るバニラビーンズのさやの使い道を模索していると聞いて、丸ごとすり潰してチョコレートに入れて生まれたのが『あまいひとくち』です。純粋なバニラの香りのみならず、さやを入れたことによってお香のような独特なニュアンスが際立っているので、雑味がなくまろやかな印象のこの1杯を合わせました」
チョコレートケーキ × CAFE@HOME
with Chocolate Sweets チョコレート系スイーツと
チョコレートとカカオパウダー、生クリーム、バター、卵、スペルト小麦から作られたシンプルなチョコレートケーキ。長崎のカステラの製法を参考にし、焼き方にもこだわっている。チョコレートメーカーとしての矜持が凝縮されたケーキゆえ、コーヒーには、カカオの風味を引き立たせるしっかりとした苦味が持ち味の「CAFE@HOME
with Chocolate Sweets チョコレート系スイーツと」をチョイスした。
「カカオ豆はもちろん、乳製品には広島市湯来町にあるサゴタニ牧農のものを、鶏卵は福島県会津坂下町のやますけ農園のものを、といずれも自然に近い状況で育まれた良質な素材を使っています。チョコレートのために作られたコーヒーとともに、真っ向勝負で味わってもらえたら」
Food with 6Pコーヒーセット
USHIO CHOCOLATL 尾道店
所在地:広島県尾道市向島町立花2200
TEL : 0848-36-6408
営:11時〜16時
休:火曜・水曜
Web:https://ushiochocolatl.com/
工場と店舗機能を持った『ウシオチョコラトル』の本拠地。できたてのチョコレートや焼き菓子、ドリンクを楽しめるほか、雑誌やZINE、CDなどの関連グッズも取り扱っている。