UCC ひと粒と、世界に、愛を

So, Coffee?

FEATURE
リキュールとコーヒー
#01
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飲む時間を選ばず楽しめる、
コーヒーカクテルの最新形とは?

ここ数年、コーヒーとアルコールの距離が近付いている。スペシャルティコーヒーと呼ばれる世界でもトップランクの豆を使い、格別のコーヒーカクテルを作る店が増えているのだ。クラシックカクテルの一つであるエスプレッソマティーニも、豆とベーススピリッツにこだわり、今や別次元へと進化(=深化)している。そんな進化したコーヒーカクテルを作るのに必要なのはバリスタとバーテンダー両方の技術。秋の午後、そんな最新のコーヒーカクテルが体感できるショップを訪ねた。
Nov.29.2024

photography:Satoko Imazu
text:Yoko Fujimori
edit:Chisa Nishinoiri

アッシュ=灰という店名から、ブルーグレイがテーマカラーに。
「KOKUTO DE LEQUIO×Dark Roasted Blend」1,600円。

コーヒーとカクテルのプロが常駐する、
進化したコーヒーカクテルを味わう店へ。

グレイトーンの店内に気持ちのいい陽光が差し込む『æ』(アッシュ)は、間違いなく昨今のコーヒーカクテルのムーブメントを牽引する1軒だ。
2022年5月、神南エリアにオープンしたこの店は、『The SG Club』をはじめ話題のバーを国内外に展開するバー・カンパニー『SG Group』が手がけた初のカフェ。

「SG Group」は、世界中のバーから50軒のみ選ばれる世界最高のアワード「The World’s 50 Best Bars」を数多く受賞し、ファウンダーの後閑信吾氏は「ASIA’S 50 BEST BARS」で2冠の受賞歴を誇るスターバーテンダーでもある。
そんな後閑氏が、バリスタ日本チャンピオンに3度輝くトップバリスタ・石谷貴之氏をパートナーに迎えた『æ』は、インフィニティー(∞)とコーヒー豆を合わせたロゴが物語る通り、コーヒーとカクテルが持つ“無限の可能性”を追求するカフェ&バーだ。

コーヒー周りはすべて石谷氏が監修し、味の軸となる2種のオリジナルブレンドは、浅炒りを「LEAVES COFFEE ROASTERS」に、深炒りは「OBSCURA COFFEE ROASTERS」という石谷氏が信頼を置くロースターに依頼。世界中からコーヒーファンが訪れることもあり、今年からシングルオリジンとしてスイスの実力派ロースター「MAME」によるマイクロロットも楽しめるようになった。

コーヒードリンクはもちろんのこと、エスプレッソマティーニ7種類、アイリッシュコーヒーなどクラシックカクテルが6種類と、コーヒーカクテルのバリエーションの豊富さに驚かされる。
バーマネージャーを務める滑川裕大さんに、さっそくおすすめのカクテルを作ってもらった。

「シグネチャーのエスプレッソマティーニは、沖縄の瑞穂酒造とコラボレーションしたオリジナルの沖縄産リキュールを使うことが特徴です。沖縄の黒糖は使い切れずに廃棄されてしまうことがあるのですが、リキュールにすることでカクテル使用でき、日持ちがするので国内外どこへでも持っていける。そうした思いから作ったんです」と滑川さん。
スタイリッシュなラベルの「KOKUTO DE LEQUIO」は、沖縄の桜の花から採取した酵母で作った泡盛に黒糖を原料にしたラムを合わせたリキュール。これにダークローストのエスプレッソと自家製シロップを合わせてシェークし、優美なマティーニグラスへ注ぐ。
スムーズなフォームが口の中に滑り込むと、深炒りらしいしっかりとした苦味があり、黒糖ラムのコクが甘い余韻を残す。こんなにコーヒーの味わいをクリアに堪能できるエスプレッソマティーニがあるとは…! これも“完璧なエスプレッソを抽出するバリスタの技術と、マイルドな泡を作り出す洗練されたバーテンダーの技術”があるからこそ表現できる味なのだろう。
「エスプレッソを浅炒りにしたり、スピリッツを変えて作ることもできますよ。æの7種類のエスプレッソマティーニの中には焼酎を使用しているものもあります。芋の場合は浅炒り、黒糖や麦には深炒り、米にはデカフェ…など、香りと味わいでスピリッツとコーヒーと合わせています」(滑川さん)

バーマネージャーを務める滑川裕大さん。バリスタ歴13年、コーヒー豆の焙煎も手がける。SG Groupに入社後バーテンダーのスキルを習得。
シェーカーを振り、マティーニグラスへ。ちなみにこの日のグラスは、ファウンダーの後閑氏とグラスデザイナー木村祐太郎氏がタッグを組み開発した「SG Group」のグラスブランド「SIP AND GUZZLE」シリーズのもの。
エスプレッソマティーニに使うコーヒーは、グアテマラ、ケニア、コロンビアを合わせた「OBSCURA COFFEE ROASTERS」のダークブレンド。
「SG Group」が那覇の酒造『瑞穂酒造』と協働で開発した沖縄発スピリッツ「KOKUTO DE LEQUIO」シリーズ3部作。(左)泡盛と黒糖ラムを合わせた第1弾のリキュール。(中)沖縄産黒糖から作るラムをベースに、シークヮーサーや月桃など沖縄のボタニカルを加えた「ヤンバル スパイスド ラム」。(右)同じく沖縄産黒糖のラムをベースに、アーサやヒレザンショウなど地元のボタニカルを加えた「チュラウミ スパイスド ラム」。パッケージデザインはバンクーバーのイラストレーター。アートディレクターのBenjamin T. Stoneが手がけた。
「コーヒークラシックス」シリーズから、アイリッシュコーヒー1,450円。球体のチャーミングなグラスもオリジナルブランド「SIP AND GUZZLE」のもの。

2杯目は、これぞクラシックカクテル、といった存在感のアイリッシュコーヒーを。アイスかホットをセレクトできるとのことで、本日はホットで。コーヒーは、イトブレンドを濃いめに淹れたコールドブリュー(水出し)を温めて使う。これにアイリッシュウィスキー「ブッシュミルズ」と黒糖を合わせてミキシング。しっかりとしたコーヒーの存在感がありながら、エチオピアとコロンビアのゲイシャ種を併せたこれを飲むと、ブレンドのフラワリーな華やかさが広がり、水出しを使うことでクリーンな印象が増している。アイリッシュコーヒーの既成概念が覆るかも。

泡を飲む甘美な感覚にうっとり。きめ細かなフォームに余剰食材を利用した自家製ドライオレンジを載せて。コアントローカプチーノ1,380円。

ゼロウェイストがコンセプト。
店名に込められた思いとは?

もう一つ、『æ』を語るうえで忘れてはならないのが、ゼロウェイスト(廃棄物ゼロ)をコンセプトに掲げていること。店名には「灰まで使い切る」という意味も隠されているのだ。カフェで最も多い廃棄物である抽出後のコーヒー粉のリサイクルをはじめ、会計はキャッシュレス、メニューやショップカードはQRコードを導入して完全ペーパーレスに。再生可能な素材はドリンクやカクテル、スイーツに極力活かすなど、多くのチャレンジを重ねている。

3つ目のカクテル「コアントローカプチーノ」は、そんな『æ』のコンセプトを象徴する一杯だ。レシピはライトブレンドのエスプレッソ、ミルク、コアントローだが、実はここに“再生可能な素材”が使われている。
「レシピによっては抽出したエスプレッソを使い切らない場合もあります。従来それは捨てられていたのですが、この店ではボトルに入れて冷蔵保存し、カプチーノに使用したり、ティラミスやパンの材料としても活用しています」と滑川さん。カプチーノやラテ用に泡立てたミルクも、余ったものは型に流し込んで冷凍し、ミルク氷に。この「コアントローカプチーノ」は、こうした再利用のエスプレッソとミルクから作られているのだ。
「材料を入れてブレンダーでミキシングする際、ミルク氷を入れると薄まらず、泡に粘性が出てトロリとするんです。通常の氷だけではこうはならないですよね」
確かに、グラスに表面張力ギリギリに満たされたフォームは、夢のようにエアリーで口の中ですうっと消え去る。浅炒りブレンドならではの華やかで透明感のある酸味と、コアントローのまろやかな甘味が花開いて、これは名作…!

このカクテルにはライトブレンド(エチオピア、コロンビア)をセレクト。
通常の氷でなくミルクの氷を入れて泡立てることで、泡に粘性が出てフワッフワのテクスチャーに。

そして店頭に鎮座するエスプレッソマシンVICTORIA ARDUINO社製の「MAVERICK」も、この店のコンセプトを象徴する存在だ。ピュアブリューという新たな抽出機能を搭載しており、コーン型の金属フィルターでエスプレッソのように圧をかけずにフィルターコーヒーを作ることができる。ペーパーフィルターを使わない、つまりペーパーレス。かなり稀少な機種で、日本初の導入店とのこと。
「油分も吸収してしまうペーパーフィルターとは異なり、ネルドリップのようなとろりとしたテクスチャーがあります。豆の油分が残っているので冷めていくと酸味や甘味がくっきりと浮かび上がり、味の変化を楽しめるんですよ」(滑川さん) 確かに、飲んでみるとシルクのように舌触りが滑らかで、複雑味があるのにするすると染み込んでいく。ノーストレスな“ピュア”な飲み口は感動的だ。

ピュアブリューの特徴的なコーン型のフィルター。金属製なのでペーパーフィルターのようにコーヒーの成分を吸収しないため、コーヒー液にオイルや微粉が含まれ、奥行きのある味わいに。
「MAVERICK」のピュアブリューでの抽出風景。エスプレッソマシンでフィルターコーヒーを淹れるという未知の体験!
TO GO用に使えるオリジナルデザインの「ハスキー タンブラー」。従来、廃棄されていたコーヒーハスク(コーヒーの実の外皮や殻)を活用。2,300円。
和紙由来の生地で作られたユニフォームの背中には「F**k Waste」の文字が。直訳すると「ゴミ大嫌い」だが、「F**king Wasted」になるとスラングで「泥酔」を意味するという、シャレの効いたメッセージ。ユニフォームはコーヒー滓で染め、徐々にブラウンになっていく。
ピュアブリュー630円。シングルオリジンは+200円。写真はスイスのロースタリー「MAME」の焙煎によるシングルオリジンで、ホンジュラス エル・ロブラル。オリジナルマグは牛の骨灰(ボーンアッシュ)を配合した「NIKKO」製の磁器=ボーンチャイナ。割れたものは肥料としてリサイクルが可能だ。

「最近街に増えている、特別なコーヒー豆を非日常な空間で味わう店も好きですが、ここはやっぱり日常に溶け込む店であってほしい。バーでもあるので我々バーテンダーとの会話も楽しんでほしいですね。ゼロウェイストのコンセプトも大切でにしつつ、”おいしい”を追求しています」と笑う滑川さん。

クオリティの高い一杯を出し、チャレンジングな取り組みを掲げながらも、決して気難しくなくオープンマインドでフレンドリー。この高い接客スキルもまた『æ(アッシュ)』の魅力。だから明るいうちから気兼ねすることなく、最高のコーヒーカクテルを楽しんでほしい。

æ(アッシュ)

所在地:東京都渋谷区神南1-5-2川村ビル1F
営:12時〜24時(23時30分LO)
休:無休
完全キャッシュレス会計
Instagram:@ash_jinnan

*表示はすべて税抜価格。
*お酒は20歳になってから。お酒に関する情報の共有は20歳以上の方に限られております。

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