1. よい香りは人の気分を変え、他人に対し親切にさせる
よい香りがすると、人は自然と他人に対して親切になる!? こんな嘘のような話を実験で検証した研究者がいた。レンセラー工科大学(アメリカ)のロバート・A・バロン博士が2013年に発表した論文によると、大型ショッピングモールのパン屋、クッキー店、挽き売りコヒー店など、よい香りがする場所では、そうでない場所に比べ、ペンを落とすと通行者が積極的に拾ってくれたり、両替を頼むと快諾してくれたというのだ。
表をご覧いただこう。コーヒーなどのよい香りがする場所では、そうでない場所に比べ男女とも2倍以上の多くの人が進んで人助けに応じている。
「視覚、聴覚に頼りがちなヒトの嗅覚はかなり弱っていますが、ヒト以外の生物は嗅覚を使って敵か味方かを探ったり、食べ物に毒が入っていないか嗅ぎ分けています。嗅覚は命に関わるとても重要な感覚なのです」と語るのは、古賀良彦先生。ヒトは大脳新皮質[※1]で知的な作業を行うが、嗅覚の受容体は脳から伸びる神経が頭蓋骨を通り抜け、鼻腔上部に達した嗅上皮[※2]にある。
「衰えがちとはいえ、匂いを受け止めるのは顔の一番前にある感覚器。それだけ重要であり、匂いは脳の活動に強く影響します」
逆に悪臭を嗅がされると、記憶力が大きく低下するとのこと。これは嗅上皮からの信号を受け止める大脳辺縁系[※3]は、嗅覚以外に感情や記憶にも影響する部位であるので、悪臭というストレスを感じることで、記憶にも影響を及ぼすからである。よりよい暮らしには、コーヒーなどの芳しい香りが求められるようだ。
[※1]大脳のうち表面を覆う、多数の溝が走る灰白色の皮質構造部。言語をはじめ高度に知的な活動を行う部位。
[※2]鼻腔内の奥にある粘膜組織。匂い分子がここに接触し、感知されると、粘膜内の嗅細胞が興奮して電気信号を発生。電気信号が嗅神経、嗅球、脳(大脳辺縁系)へと伝わり、匂いを感知する。
[※3]中枢神経である脳幹と大脳皮質を結ぶ大脳基底核を覆うように広がる部位。意欲、情動や自律神経の活動に関わる。その一部が( 短期 ) 記憶を司る海馬。
\KOGA’S VOICE/
香りが脳の活動に影響を与えることは一目瞭然です。
古賀良彦先生
1971年慶應義塾大学医学部卒業、1999年に杏林大学医学部附属病院精神神経科教授に。現在はNPO 法人日本ブレインヘルス協会理事長。著書に『週末うつ』(青春出版社)、『熟睡する技術』(メディアファクトリー)ほか。