COFFEE MEETS CULTURE
コーヒーと映画。
このコーナーでは「コーヒーとカルチャーの出会い」をテーマに、さまざまな作品をご紹介。今回のお題は「映画」。それぞれの作品の中でのコーヒーの役割や意味を考えて、映画の魅力や奥深さを再発見していきましょう!
#01
バグダッド・カフェ(1987年)
ラスベガスに近い砂漠にある、カフェ兼モーテルの「バグダッド・カフェ」。そこにドイツ人の女性客、ジャスミンがやってくる。いつも不機嫌な女主人と風変わりな客たちが顔を揃えているカフェが、ジャスミンの存在によって活気を取り戻していく。主題歌『コーリング・ユー』も話題となり、日本でもミニシアターでヒットを記録した。
ふたつのコーヒーが文化の違いを伝える
砂漠の中にあるバグダッド・カフェでは今日も女主人が亭主とケンカ中。カフェなのにコーヒーマシンが壊れている。運悪くそこにやってきたのは、同じくケンカをしてダンナと別れたドイツからのツーリスト、ジャスミン。彼女が淹れた濃いコーヒーを飲んだカフェの客が「苦い!」と咳き込み、お湯で割って「コレでいい」と満足げな表情を見せるシーン、そしてジャスミンがカフェの薄いコーヒーを飲んで「これがコーヒー? 茶色い水だわ」とつぶやくシーンの対比が笑いを誘う。薄いアメリカンコーヒーと、ドイツらしい濃いコーヒー。相容れないバックボーンを持つ人々が少しずつ心を寄り添わせていく過程がコーヒーを通して描かれ、じんわりと心に染みる。
◎1杯目のコーヒー登場シーン:開始から8分31秒
#02
ティファニーで朝食を(1961年)
ニューヨークの安アパートに暮らす娼婦、ホリー・ゴライトリーの日課は、憧れの宝石店であるティファニーのディスプレイを見ながら朝食を食べること。ある日、彼女の部屋の隣に作家の青年が引っ越してくる。彼はホリーに惹かれていくが、彼女は秘密を抱えていた。カポーティの同名小説を映画化したラブストーリーの名作。
優雅でユニークなモーニングコーヒー
夜明けのニューヨーク五番街。すーっと静かにタクシーが止まったのはティファニーの前。ロングドレスにパールのネックレスでめかし込んだひとりの女性が、紙袋からデニッシュとコーヒーを取り出し、ショーウィンドウをのぞきながら朝食をとる――。主題歌『ムーン・リバー』が流れる冒頭、このちょっと不思議な行動から、オードリー・ヘプバーン演じるヒロインに誰もがくぎ付けになる。1杯のコーヒーが彼女のミステリアスなキャラクターを伝える、うまい小道具にもなっているというわけだ。朝のコーヒーは数多くの映画に登場するが、これほどまでに優雅でユニークなモーニングコーヒーのシーンが出てくる映画は、ほかに思い当たらない。
◎1杯目のコーヒー登場シーン:開始から1 分17秒
#03
シェーン(1953年)
1890年、アメリカ、ワイオミングの高原地帯。旅人のシェーンは、開拓移民のスタ ーレット家と出会い、一晩泊めてもらうことになった。そこで彼らが牧畜業者と争っていることを知る。酒場でケンカを挑まれても相手にしなかったシェーンだったが……。シェーンをアラン・ラッド、殺し屋をジャック・パランスが演じた西部劇。
酒場でコーヒーを飲む男の美学
開拓移民と牧畜業者の間で、土地をめぐる争いが起こっているワイオミング。旅人シェーンは、世話になった家族のためにその争いの中に身を投じていく。「シェーン・カムバック!」のセリフでおなじみの傑作西部劇にも、コーヒーがさりげなく登場するシーンがある。黒ずくめの格好をしたウィルソンは、いつも酒場のカウンターにひとりで座り、誰とも言葉を交わさない男。腕利きの殺し屋である彼は、決してアルコールを口にせず、いつもコーヒーを飲んでいるのだ。早撃ちが必要になったとき、酔っていては俊敏に動くことができないからだろう。ひとりの男の硬派なプロフェッショナリズムを伝える飲み物として、コーヒーが描かれている。
◎1杯目のコーヒー登場シーン:開始から8分58秒
細谷美香さん
情報誌の編集者を経て、映画ライターに。さまざまな女性誌を中心に、ハリウッドからアジア、日本まで、グローバルに映画紹介や俳優、監督のインタビューを行っている。好きなジャンルは、ラブコメディと青春映画。